イギリスの田舎を走る旅2017 Day4 聖地グラストンベリー

パワースポットTorへ

メンディップ丘陵を下ってウェルズからグラストンベリーは、EuroVelo1を走って約10kmの距離なので、もう目と鼻の先。ウェルズを出て少し走ると、遠くの方になだらかな丘陵地帯にポツンと浮かぶように存在する丘と、その上に立つ塔がかすかに見えるようになってきました。

あれがアヴァロンと言われるTor。

(笑)はるか遠くにTorが見えてきた

伝説の島アヴァロン

聖剣エクスカリバーを携え、魔法使いマーリンや円卓の騎士たちと共に数々の戦いや冒険をくぐり抜け、王国キャメロットに君臨したアーサー王の物語。世界中にファンがいて、ファンタジー作品のモデルにもなっている物語。物語の終わりにアーサー王が戦いで瀕死の重傷を負い、最期を迎えたのがアヴァロン島。イギリスにあったとされる伝説上の島です。

ケルト語の「りんご」という言葉が由来とも言われるアヴァロンはどこなのか、世界中のアーサー王ファンの論争の的でしたけど、その最有力となる場所がTorです。

ペダルを漕ぐごとにどんどん近づいてくるTor。今は周りに森や牧草地が広がっていますが、昔はこの辺りは湖も点在する湿地帯で、Torは海に浮かぶ小島のようだったのだとか。内陸にあってもTorがアヴァロンと言われる理由です。

EuroVelo1をブリストルから下ってくると、グランストンベリーの町の反対側、どちらかというと裏手側からTorに着きます。最後はけっこう急な砂利道。この道も一応正式なサイクリングロードのルートです。

そしてやっと麓に到着。ここで自転車を降りてTorに登りました。

丘の上に続く階段を登るところに、「りんご」が書かれた看板が。

少しずつ登りながら上を見上げると、逆光となった太陽の光にTorが包まれていました。あたりはとにかく静かなので、そこにいるだけで落ち着いた気持ちにさせてくれます。ここはイギリス随一のパワースポットで、Torは2012年のロンドンオリンピックのとき、参加国の国旗を掲げた場所のモデルにもなってます。

写真に青い光が写っていますが、これはオーブなんだそう。オーブの正体って一体なんだ?

足を踏み外したら落ちそうな道をどんどん登る。

一番上まで登ると意外に高いので、見晴らしが良く、風が通り抜けていくので気持ちいい。

そして振り返るとTor。この日はこれを目指して走ってきたんです。

この塔は聖ミカエル教会の跡。ここにはかつて木造の教会があったらしいですが、中世の大地震で倒壊してしまったのだとか。ヨーロッパで地震ってあまりイメージがないですけど地質学の時間軸からするとそう遠い昔のことじゃない。

静かであまりにも風が気持ちいいので、この草っ原でしばらく横になりました。走ってきた疲れが吹き飛ぶ感じ。眼下にはグラストンベリーの町が見えます。

ケルト人とアーサー王物語のその後

ケルトの伝承や書き残された文献が起源のアーサー王伝説は、物語の原型に何人かのモデルがいるものの基本的にはフィクションで想像の産物。それが中世には騎士道や聖杯と結びついてキリスト教色を強くし、さらには騎士道物語という文学の1大ジャンルの中で代表的な物語になっていきますが、それは現代の恋愛小説の「ロマンス」に繋がっています。

ちなみにアーサーの物語を生み出したケルト人は、その後アングロサクソン人にどんどん領地を奪われていき、ウェールズやコーンウォール、海を渡ったフランスのブルターニュ等のに追い込まれていきます。ブルターニュとはスモールブリテンという意味。これらの地域はいずれも現代の6つのケルト語圏(スコットランド、アイルランド、マン島、ウェールズ、コーンウォール、ブルターニュ)に属します。

聖杯が投げ込まれた井戸 チャリスウェル

EuroVelo1でバースからブリストルを経由して南に走ってきたこの日は、このグラストンベリーで泊まる予定だったので、パワースポットTorで少しゆくっりした後は、そのまま町に下りて行きました。Torにくることが目的の1つだったのですが、もう一つこの町で行って起きた場所がありました。それはチャリス・ウェル。聖杯の井戸。Torからグラストンベリーの町の中心に行く途中の庭園の奥にそれはあります。チャリスとは聖杯。

聖杯(Chalis Well)とは、アーサー王の物語の中では「アリマタヤのヨセフが十字架上のキリストの血を受けた杯」という設定になっていて、ここの井戸には、そのアリマタヤのヨセフが聖杯を埋めたとか投げ入れたとかいう話が残っています。埋めた場所から水が湧いて井戸になった?とかどこかで読んだような記憶が。アーサー王の物語の中では、聖杯の探索として中世になって書き加えられたものなので、フィクションですけど。ただ、それを機にケルトの戦いの物語だったアーサー王が、急にキリスト教的な色彩を帯びることに。ジョン・レノンがイマジンを作ったのは、ここの井戸にきたことがきっかけになったというのは有名な逸話です。

ちなみに、12〜13世紀には、グラストンベリー修道院はアリマタヤのヨセフが創始者だったという話が突然出てきたり、グラストンベリーに突然アーサー王とその王妃の遺骨が見つかったりしています。グラストンベリーがTorと共にアーサー王物語に組み込まれたのはこの頃から。物語のアーサー王はアヴァロンで死んだのではなく、この世からいなくなっただけなのでまたいつか帰ってくる、という話になっているんですよね。そもそもフィクションであるはずのアーサー王の遺骨が見つかるはずもないと言いたいところですが、それは当時のイギリスの国内の政治が絡んでいるようなので、どこかで書き留めておこうかな。

自転車でTorから下りてくると5分くらいで着きました。町からは歩きだと少し距離がある感じかな。

(写真)庭園になっていて、この奥に目指す井戸が

チャリス・ウェルの前に来た時、真正面で白人女性が坐禅を組んで瞑想に耽っていました。

グラストンベリーへ

チャリスウェルの後は、先ほどTorから見下ろしたグラストンベリーの町にやってきました。お店が並ぶストリートを走っていると、ヒッピーのような時代錯誤をしたファッションの若者が目につく(笑)

泊まる宿がグラストンベリー修道院の目の前なので、ホテルにチェックインだけ済ませて、すぐに行ってみましたが5分の差でクローズでした。しょうがない、また来ることにしよう!

仕方なくホテルで荷を解いて夕食に。外に出たら雨が降っていたので、ホテル近くにあったイタリアンの大衆店に。一日よく走ったので、スープにマッシュルームに魚介のパスタをオーダー。少し口にしたらドット疲れが出てきて全部食べきれず。前日のバースと同じようにパスタだけテイクアウトしてもらって早々とホテルに戻りました。

ホテルに戻ったらすぐ寝てしまったんですが、夜に起きてテイクアウトした冷めたパスタを食べていると窓の外は嵐。この夜は雷が夜中まで続きました。

翌日はいよいよコーンウォールです。コーンウォールもアーサー王ゆかりの地です。