プリマス 観光 & サイクリングガイド

UK · Plymouth

無敵艦隊を迎え撃った大西洋への扉

プリマスという街

プリマスの歴史は中世に遡ります。デヴォン州の南端、プリマス・サウンドと呼ばれる天然の良港に面したこの都市は、13世紀にはすでにイングランド有数の貿易港として繁栄していました。フランスやイベリア半島との海上交易を担い、大西洋への玄関口として機能するうちに、やがてイングランド王室の海洋進出を支える軍事拠点としての顔を持つようになります。

16世紀、プリマスは海洋大国イングランドの中心に躍り出ます。1577年、プリマス出身の冒険家フランシス・ドレイクがここから出航し、1580年に世界で2人目となる世界周航を成功させてプリマスへ帰港。1588年にはスペイン無敵艦隊(アルマダ)の北上が伝えられた際、ドレイクはプリマス・ホーでボウルズを楽しんでいたという伝説が残っています。「スペインを迎え撃つ前にゲームを終わらせる時間は十分ある」と言い放ちゲームを終えてから出撃し、英国艦隊を率いてアルマダを退けたとされるこの逸話は、プリマスの気風そのものを表すものとして今も語り継がれています。プリマス・ホーに建つドレイクの銅像は、今も大西洋へ向かって視線を向けています。

1620年9月16日、102人のピルグリム・ファーザーズを乗せたメイフラワー号がプリマスを出港し、新世界アメリカへの大西洋横断の旅に出ました。もともとサウサンプトンを出発した彼らは、船の不具合によりプリマスに立ち寄り、ここが最終の出港地となりました。バービカン地区に残るメイフラワー・ステップスはその出港地点を示す記念碑で、現代においても北米とイギリスを結ぶ精神的な絆の象徴として多くの訪問者を集めています。アメリカのマサチューセッツ州に「プリマス」という地名が存在するのは、上陸した入植者たちが故郷への敬意を込めてつけたことによります。

20世紀、プリマスは別の意味でも歴史に深く刻まれます。第二次世界大戦中の1941年3〜4月、ドイツ空軍による激しい空襲(ブリッツ)を受けたプリマスは、市街地の大部分が瓦礫と化しました。59回にわたる爆撃で1,000人以上の市民が命を落とし、中心部の旧来の建築物の多くが失われました。戦後、都市計画家パトリック・アバークロンビーの再建計画のもと、プリマスは整然とした近代都市として生まれ変わります。現在のプリマスは歴史と現代が混在する都市ですが、バービカン地区だけは空襲を逃れ、エリザベス朝時代の街並みを今に伝えています。南西イングランド最大の都市として、デヴォンポートの英国海軍基地(HMNB Devonport)は現在もヨーロッパ最大規模の海軍施設のひとつです。

観光スポット

1〜2日の滞在で押さえたい主要スポット。プリマス・ホーとバービカンが街の核心。郊外のダートムアも日帰りで訪れる価値があります。

展望台

プリマス・ホーとスミートンの塔

プリマス・サウンドを見渡す広大な芝生の丘のプロムナード。フランシス・ドレイクの銅像、移設された灯台スミートンの塔、ボウルズのグリーンが並びます。晴れた日はコーンウォールの海岸まで見渡せる絶景スポットで、夏は地元市民の憩いの場になります。スミートンの塔は、元々はプリマス沖14マイルのエディストーン岩礁に建っていた赤白縞の灯台。1759年にジョン・スミートンが建設し、岩礁の崩壊危機にともない1882年にプリマス・ホーへ移設されました。内部の螺旋階段を上ると最上部から大西洋の絶景が広がります。

歴史地区

バービカンとメイフラワー・ステップス

プリマスで最も古い歴史地区。エリザベス朝・ジャコビアン様式の木組みの建物が並ぶ石畳の路地に、ギャラリー、レストラン、パブが集まるプリマスの歴史の核心部です。この地区にあるメイフラワー・ステップスは、1620年にピルグリム・ファーザーズがメイフラワー号に乗船した場所を示す記念碑。バービカン地区の波止場に位置し、アメリカとイギリスの歴史的なつながりを感じられる場所です。隣接する記念館では出航の背景とピルグリムたちの物語が紹介されています。

要塞

ロイヤル・シタデル

1660年代にチャールズ2世の命で建設された星形要塞。現在もイギリス軍の施設として使用されていますが、夏季にはガイドツアーで内部を見学できます。大砲が並ぶ城壁からのプリマス・サウンドの眺めは圧巻です。

水族館

国立海洋水族館

イギリス最大の水族館。地元のプリマス・サウンドの海域から熱帯の珊瑚礁まで、500種以上の海洋生物を展示しています。大型のサメのいる巨大タンクや、海洋保全活動を紹介する展示が人気。子連れの観光にも最適です。

歴史的建造物

第二次世界大戦のプリマス大空襲(1941年)を奇跡的に逃れたバービカン地区には、16〜17世紀のエリザベス朝・ジャコビアン様式の建物が今も現役で残っています。石畳の「サザーサイド・ストリート」と「ニュー・ストリート」沿いに立ち並ぶ木組みの商家建築は、ヨーロッパの他の大都市でも失われた中世の都市景観を保っています。なかでもブラック・フライアーズ蒸留所の建物は1430年代に建設されたドミニコ会修道院が起源で、現在もプリマス・ジンの製造拠点として現役です。出港前夜のピルグリム・ファーザーズもこの建物に宿泊したと伝えられており、建物自体が生きた歴史の証言者です。

1666年完成のロイヤル・シタデルは、イングランド内戦後の政情不安のなかでチャールズ2世が建設を命じた星形要塞です。注目すべきは要塞の大砲の向きで、外敵方向だけでなく市内方向を向いたものが多く含まれています。クロムウェル派の市民を牽制するための設計だったと考えられており、当時の王政復古期の政治的緊張が建築に刻まれた興味深い遺産です。現在もイギリス海兵隊の施設として使用されていますが、夏季のガイドツアーでは城壁や礼拝堂、大砲を間近に見学することができます。

街道や古道

プリマスの北に広がるダートムア国立公園には、石器時代から青銅器時代にかけて人々が歩いた古道が縦横に走っています。特に「ジョバーズ・ロード(Jobbers Road)」は、かつての行商人が錫や羊毛を運んだ中世の交易路で、現在もトレッカーやサイクリストに広く利用されています。荒野の霧に包まれた花崗岩の岩塊(トー)と古道の組み合わせは、ブリテン島の原始的な景観を体感できる場所です。ダートムア全域には「リキー(Ley Lines)」と呼ばれる古代の石柱が一直線に並ぶ謎の配列も多く見られ、先史時代から続く人の営みを感じさせます。またプリマスから北へ向かうトゥー・ムーアズ・ウェイ(Two Moors Way)は、ダートムアとエクスムーアの二大荒野を縦断する172kmの長距離歩道で、その南端近くがプリマス郊外から始まります。

プリマスはかつてフランス・ブルターニュ地方との海上交易で繁栄した港でした。14〜15世紀、プリマスの商船はブルターニュのサン=マロやブレストとの間でワイン、塩、布地を運び、大西洋の交易ルートを支える重要な寄港地でした。現代ではこの歴史的な交易ルートをブルターニュ・フェリーが引き継ぎ、プリマスからフランスのロスコフへ定期便を運航しています。EV1(大西洋岸ルート)を走るサイクリストにとって、このフェリーはイギリスから大陸ヨーロッパへ渡る最重要の橋渡しです。そして1620年のメイフラワー号の航路もまた、プリマスから西へ、大西洋を横断するという「西への航路」を象徴するものとして、この港の歴史的な役割を際立たせています。

料理とお酒

デヴォン州南端の港町プリマスは、大西洋に面した立地から新鮮な魚介が豊富です。地元の漁師が水揚げするタラ、ヒラメ、ロブスター、ムール貝がプリマスの食卓を彩ります。プリマスを代表する食体験といえば、海を見渡すパブやカフェで食べるフィッシュ&チップス。サクサクの衣にふわふわの白身魚、マルト・ビネガーをかけるのが現地の流儀です。そしてデヴォンといえば欠かせないクリームティー。スコーンにジャムをのせ、その上にたっぷりのクロテッドクリームをのせて食べるのがデヴォン式で、コーンウォール式(クリームを先にのせる)との流儀の違いは今も地元の話題のひとつです。

FOOD

デヴォン・クリームティー 本場の作り方と食べ方

スコーンに自家製ジャム(ストロベリーまたはブラックカラント)をのせ、その上にたっぷりのクロテッドクリームをのせる——これがデヴォン式クリームティーの正式な食べ方。クロテッドクリームは生クリームをゆっくりと加熱して表面に厚い層を形成させたもので、脂肪分55%以上。バター以上のコクと甘みがあります。BBCグッドフードなどのレシピでは、スコーンはバターをしっかり冷やして使い、こねすぎないことが絶対条件とされています。プリマスのバービカン地区やプリマス・ホー周辺のティールームで、大西洋の景色を眺めながら味わうのが最高の楽しみ方です。

プリマスのバービカン地区に建つブラック・フライアーズ蒸留所(Black Friars Distillery)は、1793年からジンを製造し続けるイングランドでも指折りの蒸留所です。建物の起源は1430年代のドミニコ会修道院で、1620年にメイフラワー号に乗り込む前夜のピルグリム・ファーザーズもここに宿泊したと伝えられています。プリマス・ジンはロンドン・ドライ・ジンとは異なる、やわらかくアーシーな風味が特徴で、かつてはイギリス海軍将校たちに愛飲された歴史を持ちます。地理的表示(PGI)を取得しているため、「プリマス・ジン」の名称はこの蒸留所でのみ使用が認められています。

DRINK

大英帝国海軍が愛した「プリマス・ジン」

ジュニパー、コリアンダー、アンジェリカルート、カルダモン、スイートオレンジピール、グリーンカルダモン、オリスルートの7種のボタニカルを使用。やわらかな甘みとアーシーなボタニカルの香りが特徴で、ロンドン・ドライ・ジンに比べて刺激が穏やかです。シンプルなジントニックから、マリナーズ・マルティーニまで幅広いカクテルに使われ、ジン入門者にも飲みやすい一本として知られています。バービカン地区の蒸留所では工場見学とテイスティングも体験できます。

【Amazon】プリマス・ジンの詳細を見る(外部リンク)

お祭り

毎年8月にプリマス・ホーとプリマス・サウンドを舞台に開催される「ブリティッシュ・ファイアワークス・チャンピオンシップ(British Fireworks Championship)」は、イギリス最高峰の花火競技会です。全国から選抜された花火師チームが2夜にわたって腕を競い、大西洋を背景に打ち上げられる壮大な花火ショーには毎年数十万人の観客が訪れます。

観覧ポイントはプリマス・ホーの丘の上やバービカン近くの波止場が中心ですが、プリマス・サウンドに停泊するボートや船上から見る花火も格別です。夜明けのような白光から深紅のナイアガラまで、プロの花火師だけが繰り出せる技が海面に反射して幾重にも広がります。競技は採点方式で行われ、最終日の結果発表も大きな盛り上がりを見せます。花火鑑賞のあとはバービカン地区のパブで余韻を楽しむのが地元の定番コースです。

このほか、7月に開催される「プリマス・シーフード・フェスティバル(Plymouth Seafood Festival)」ではバービカン地区の波止場が海の幸で彩られ、地元漁師や料理人が集うにぎやかな食のイベントとなっています。8月の「プリマス・レガッタ(Plymouth Regatta)」では、ヨットレースや水上スポーツが盛んにプリマス・サウンドで行われ、街全体が海のスポーツ一色に染まります。

土地の記憶

1588年夏、スペイン国王フェリペ2世が送り込んだ「無敵艦隊(アルマダ)」がイングランド侵攻を目指して北上した際、プリマスはその最前線に立ちました。伝説によれば、艦隊接近の報告がもたらされたとき、プリマス湾を見下ろすホーの丘でボウルズに興じていたフランシス・ドレイクは、「スペインを撃つ前に、このゲームを終わらせる時間は十分ある」と言い放ったとされています。

この逸話の史実性については歴史家の間で長く議論が続いています。風向きの関係で英艦隊はすぐには出航できない状況にあり、ゲームを続けることは実際には合理的な判断だった可能性があります。しかし伝説は生き続け、プリマス・ホーに今もある芝のボウルズ・グリーンでは、現在も市民がゲームを楽しんでいます。その真向かいにはドレイクの銅像が建ち、大西洋へ視線を向けています。

ドレイクが世界周航中に常に携えていた太鼓(ドラム)は、彼の死後、デヴォン州のバックランド・アビー(Buckland Abbey、現ナショナル・トラスト)に収められました。イギリスに危機が訪れるとき、このドラムが自ら鳴り響いてドレイクの魂を呼び戻し、国難を救うという伝説が18世紀から語り継がれています。第一次世界大戦や第二次世界大戦の開戦前夜に謎の太鼓の音が聞こえたという証言が複数残っており、詩人ラドヤード・キプリングはこの伝説を「Drake’s Drum」という詩に詠みました。「Drake he’s in his hammock an’ a thousand mile away」という書き出しで始まるこの詩は、プリマスとドレイクの伝説を不朽のものにしています。バックランド・アビーはプリマスから北西約13kmに位置し、ドラムの実物を見学することもできます。

サイクリング

プリマスを起点としたサイクリングは、街の港から始まり、コーンウォールの断崖、ダートムアの荒野、さらにはフェリーで大陸へとつながる多彩な選択肢がある。EV1(大西洋岸ルート)の英国区間南端近くに位置し、自転車でヨーロッパ大陸を目指すサイクリストの出発・到着拠点としても機能する戦略的な港です。

ROUTE 1 · 約 15 km

プリマス・ウォーターフロント・ライド

プリマス・ホーからバービカン、ロイヤル・ウィリアム・ヤード(歴史的な海軍補給基地、現在はショッピング・飲食施設)を経由してタマー川口まで。海沿いのプロムナードをほぼ平坦に走るポタリングコース。プリマス・サウンドの景色を眺めながら港町の歴史に浸れる、初心者にも最適なルートです。

ROUTE 2 · 約 55 km / 獲得標高 900 m

ダートムア・クラシック

市街地を北上し、ダートムア国立公園へ。プリンスタウン(Princetown、標高420m)を目指してゆるやかに登り続け、荒野の中に点在する花崗岩のトーと古代の石柱群を眺めながら走ります。プリンスタウンからイビーブリッジ(Ivybridge)経由で南下して戻る周回コースは変化に富み、ダートムアの原始的な景観を堪能できます。

ROUTE 3 · 約 80 km / 獲得標高 800 m

EV1 コーンウォール海岸線

タマー橋を渡りコーンウォールへ入り、ロー(Looe)、ポルペロ(Polperro)、フォウィー(Fowey)の海岸沿いを南西へ走るEV1区間の一部。コーンウォールの断崖美と小さな漁村を繋ぐ、大西洋の荒々しい景観を体感するルートです。ランズエンドへと続く大西洋岸サイクリングの本格的な入口となります。

EuroVelo 1(大西洋岸ルート)の英国区間はシェトランド諸島を北の起点とし、スコットランド、イングランド西岸を経由してランズエンドへ至ります。プリマスはこのルート上の重要拠点で、ここからブルターニュ・フェリー(Brittany Ferries)でフランスのロスコフへ渡ると(所要約6時間)、EV1のフランス区間(ブルターニュ〜ロワール〜バスク地方)へシームレスに接続できます。さらにスペインのサンタンデール行きフェリー(所要約20時間)も運航しており、大西洋岸を伝ってポルトガルのリスボンまで繋がるEV1の全体像が見えてきます。自転車はフェリーにそのまま持ち込め、別途輪行袋は不要です(追加料金あり)。

アクセスと交通

最寄りの主要空港はエクセター国際空港(Exeter Airport, EXT)で、プリマス市内から北へ約60km。ロンドン・ヒースローやヨーロッパ各都市からの路線が発着しています。エクセター空港からプリマスへはバスまたはレンタカーで約1時間。また、ロンドン・ヒースロー(LHR)からの直行便利用の場合、鉄道でブリストルやエクセターを経由してプリマスへ向かうルートが一般的です。

ロンドン・パディントン駅(London Paddington)からグレート・ウェスタン・レイルウェイ(GWR)のインターシティ列車で約3時間〜3時間30分。特急便はエクセター、ニュートン・アボット経由でプリマスへ直通します。自転車の持ち込みは事前の「サイクル・リザベーション(Cycle Reservation)」が必要で、GWRのウェブサイトから無料で予約できます。列車内の専用自転車スペース(Bike Space)を使用し、折りたたみ自転車は予約不要で持ち込み可能です。

プリマスはヨーロッパ大陸へのフェリー便がある数少ない英国の港のひとつです。ブルターニュ・フェリー(Brittany Ferries)がプリマスからフランスのロスコフ(Roscoff、所要約6時間)とスペインのサンタンデール(Santander、所要約20時間)へ定期便を運航しています。自転車はそのまま持ち込み可能(追加料金あり)。EV1を走るサイクリストにとって、このフェリーはイギリスから大陸ヨーロッパのサイクリングルートへ接続する最重要の拠点です。

市内はファースト・バス(First Bus)が運行する路線バスが中心。プリマス・ホー、バービカン、デヴォンポートへはバスが頻繁に走っています。タマー川を渡ってコーンウォール側へ向かう場合は、タマー橋(Tamar Bridge)を利用します(歩行者・自転車通行可)。市内の自転車インフラは整備が進んでいますが、プリマス・ホー周辺など起伏のある地形に注意が必要です。

ベストシーズン

春(4〜5月)と秋(9〜10月)が最も快適。気温12〜18℃、大西洋の爽やかな風のなかで観光・サイクリングともに理想的なシーズン。夏(6〜8月)は18〜23℃と過ごしやすく、8月のブリティッシュ・ファイアワークス・チャンピオンシップをはじめ、レガッタやシーフード・フェスティバルなどのイベントが集中します。プリマス・サウンドでの海水浴も楽しめます。冬(11〜2月)は5〜10℃で、英国南西端の温暖な海洋性気候の恩恵を受けて比較的穏やかですが、降雨日が多くダートムアでは霧や強風に注意が必要です。フェリーで大陸渡航を計画する場合は、冬季の大西洋の波の高さにも備えておきましょう。