Portugal · Porto
ポートワインとアズレージョの港町
ポルトという街
ポルトガルという国の名を与えた港
ポルトの起源はローマ時代の港湾都市「ポルトゥス・カレ(Portus Cale)」にさかのぼります。「ポルトガル」という国名はそのままこの街の名に由来しており、ある意味ではポルトとはポルトガルという国そのものの始まりを意味します。11世紀末、ブルゴーニュ家のエンリケ伯がこの地を拠点に「ポルトゥカレ伯領」を確立し、その息子アフォンソ1世が1139年にポルトガル王国の初代国王を宣言。中世ポルトは王国建国の礎となった都市です。
15世紀、大航海時代が幕を開けると、ポルトはその中心地となりました。1394年にこの街で生まれたエンリケ航海王子は、アフリカ西海岸の探索を組織的に推進し、ヴァスコ・ダ・ガマのインド航路開拓、ブラジル発見へとつながる扉を開きました。リスボンが首都として繁栄する一方、ポルトは商人と職人の気質を守り続け、「働き者の街」としてのアイデンティティを誇りとしてきました。現在もリスボンとは異なる独自の文化と訛りを持ち、ポルトガル第二の都市として存在感を放っています。
七つの丘とドウロ川の街
現在のポルトはポルトガル北部、ドウロ川が大西洋に注ぐ河口に広がる歴史都市。人口は約23万人(大都市圏では約170万人)で、「七つの丘の街」の異名のとおり急峻な丘陵地形が街の表情を作っています。川岸のリベイラ地区を中心とする旧市街はUNESCO世界遺産に登録され、パステルカラーの家並みと青いアズレージョタイルが彩る風景はポルトを象徴します。坂を上るたびに視界が開き、ドン・ルイス橋越しのドウロ川と対岸ガイアのワインセラー群が顔をのぞかせる——そのたびに足を止めてしまう街です。
サイクリストにとってポルトは、EuroVelo 1(大西洋沿岸ルート)がそのまま街を貫く重要な中継拠点。北はガリシア・サンティアゴ・デ・コンポステーラ方面、南はコインブラ・リスボン方面への分岐点として、長距離ツーリストの多くがここで数日間足を止めます。街そのものは坂が多く自転車向きではありませんが、川沿いのフラットなルートと内陸ドウロ渓谷のワインルートは、ポルトを拠点にした最高のライドを提供してくれます。
観光スポット
主要スポットは旧市街と対岸ガイア地区に集まっており、2〜3日でゆっくり巡れます。坂と階段が多いのでスニーカーは必須。
世界遺産
リベイラ地区
ドウロ川北岸の古い港町地区。パステルカラーの建物が川岸に積み重なり、その下にカフェやレストランが並ぶ。観光船「ラベーロ」が浮かぶ川面と、対岸のワインセラー群を眺めながら時間を過ごす場所。ラベーロは、かつて上流のドウロ渓谷から河口のポルトまでポートワインの樽を運ぶために使われていた木造船です。

街のシンボル
ドン・ルイス 1 世橋
1886年完成の二層鉄橋。エッフェルの弟子テオフィロ・セイリグ設計。上段はメトロと歩道、下段は車道と歩道。上段から見下ろすドウロ川と街並みはポルト最高の絶景ポイント。

バロック建築
クレリゴス教会と塔
18世紀バロック様式の教会と高さ76mの塔。225段の螺旋階段を登れば街全体を360°見渡せる。坂の街ポルトを俯瞰する定番の展望スポット。

アズレージョ
サン・ベント駅
市内中心の鉄道駅。中央ホールはポルトガル史を描いた約2万枚の青いアズレージョタイルで埋め尽くされ、世界で最も美しい駅の一つに数えられる。電車を使わなくても入場無料で見学可能。

文化
レロ書店
1906年創業、アール・ヌーヴォーの曲線が織りなす世界で最も美しい書店の一つ。象徴的な赤い螺旋階段はJ.K.ローリングが『ハリー・ポッター』に着想を得たとされ、入場には事前予約のチケットが必須。

ワイン
ヴィラ・ノヴァ・デ・ガイア
対岸のワイン熟成地区。Sandeman、Taylor’s、Graham’s、Croftなどポートワインの名門セラーが軒を連ね、見学とテイスティングが楽しめる。ドン・ルイス橋を歩いて渡れば徒歩10分。

世界遺産
ポルト歴史地区(1996年登録)
①リベイラ地区の歴史的街並み
②ドン・ルイス1世橋
③セラ・ド・ピラール修道院(対岸ガイア側)
アルト・ドウロ ワイン生産地域(2001年登録)
ポルトから内陸へ約80km、ドウロ川上流に広がるポートワインの産地。1756年にポンバル侯爵が世界で初めて産地規制を設けたワイン産地で、急峻なスレート質の段々畑が連なる渓谷の景観ごと世界遺産に登録されています。
街道や古道
ポルトガルの道
サンティアゴ巡礼路のポルトガル版。ポルトはこの巡礼路のポルトガル最大の出発点であり、カテドラル(大聖堂)でスタンプを押して旅を始める巡礼者が後を絶ちません。ポルトから北上してスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラまでは約280km。内陸を行く「中央ルート(Caminho Central)」と大西洋沿いの「海岸ルート(Caminho da Costa)」の2本があり、どちらもポルトが起点です。近年は巡礼者が急増しており、ポルトから北のヴァレンサ(スペイン国境)までの区間は特に歩行者・自転車ともに賑わっています。自転車での巡礼(Bicigrino)も可能で、EV1と一部ルートが重なります。
大航海時代のポルト〜大西洋ルート
15世紀の大航海時代、ポルトの港はアフリカ・ブラジル・インドへ向かう船の出発点でした。エンリケ航海王子の時代に確立されたこの海路は、現在のEuroVelo 1(大西洋沿岸ルート)と重なるように大西洋沿岸を南北に走っています。かつて探検家たちが見送られた港リベイラ地区の石畳は、今もサイクリストが通る道です。
料理とお酒
フランセジーニャとバカリャウ
ポルトの看板料理はフランセジーニャ(Francesinha)。食パンの間にハム・ソーセージ・ステーキを挟み、溶けたチーズで覆って、ビールとトマトで作るスパイシーなソースをたっぷりかけた重量級サンドイッチです。店ごとにソースのレシピが異なるので食べ比べが楽しく、地元っ子が最も誇るポルト独自のソウルフード。もう一つの郷土料理がトリパス・ア・モーダ・ド・ポルト(牛もつと白いんげん豆の煮込み)。大航海時代に船員へ肉を譲った市民が残った内臓を煮込んだのが起源とされ、ポルト市民の「Tripeiros(もつ食い)」という愛称の語源にもなっています。魚料理ではバカリャウ(干しタラ)が「365通りの調理法がある」と言われるほど親しまれており、コロッケ風のパステイス・デ・バカリャウは街中で手軽に味わえます。
FOOD
フランセジーニャ
1950年代にフランスから帰国した料理人が、フランスの定番軽食「クロックムッシュ」をポルトガル人の好みに合わせてガッツリ系にアレンジしたのが始まりと言われているポルトのB級グルメの王様。

ポートワイン
ポルトの名を冠した酒精強化ワイン、ポートワイン(Vinho do Porto)。発酵途中でブランデーを加えてアルコール度数を上げ、甘みを残したまま熟成させる独自の製法は17世紀に確立されました。ドウロ渓谷で収穫されたブドウは対岸ガイアのセラーに運ばれ、樽の中で数年から数十年かけて熟成します。ルビー(若くフルーティー)、トウニー(樽熟成で琥珀色)、ヴィンテージ(当たり年もの)など種類が豊富で、Sandeman、Taylor’s、Grahamをはじめ名門ワイナリーが無料〜有料のテイスティングを提供しています。食後酒としてチーズやチョコレートと合わせるのが定番。
WINE
グラハム
作成中
お祭り
ポルト最大の祭り「サン・ジョアン祭」
毎年6月23〜24日(洗礼者ヨハネの祝日)、ポルトガル全土で祝われる聖ヨハネの祝日ですが、ポルトでは別格の盛り上がりを見せます。前夜の23日深夜から、街中の人々がプラスチックのハンマー(マルテリーニョ)で通行人の頭を叩き合うという世にも奇妙な風習が繰り広げられます。本来はにんにくや月桂樹の枝で叩く習慣だったものが、いつしかハンマーに変化したとか。リベイラ地区では深夜まで大規模な花火大会が行われ、ドウロ川が光と音で染まります。
祭りの期間中、街中でイワシのグリルの煙が立ち込め、バルのテーブルが路地にはみ出し、生演奏のファドが流れます。ポルトが最も開放的で生き生きとした顔を見せる夜です。翌24日の昼間は打って変わって静かになりますが、前夜の祝祭の余韻が街全体に漂います。
土地の記憶
エンリケ航海王子——ポルトが生んだ大航海時代の設計者
1394年3月4日、ポルトで生まれたエンリケ王子(ドン・エンリケ)は、のちに「航海王子」と呼ばれ、ポルトガルが世界に先駆けて大海原へ乗り出す時代を設計した人物です。ポルトガル王ジョアン1世の三男として生まれ、数学・天文学・地理学の知識を独学で身につけ、ポルトガル最南端のサグレスに「航海学校(エスコーラ・デ・サグレス)」を開設。地図製作者、天文学者、造船技師、航海士を集め、体系的な探検事業を推進しました。
アフリカ西海岸の扉を開く
エンリケの指揮のもとポルトガルの船は南下を続け、1419年にマデイラ島、1427年にアゾレス諸島、1444年にはアフリカのセネガル川河口に到達。1460年に彼が亡くなった時点で、探検の波はすでにギニア湾まで達していました。エンリケ自身は海に出ることなく、ポルトとサグレスを拠点に「探検の司令塔」として機能し続けたのです。
その後の世界を変えた航路
エンリケの死後も探検は続き、1488年バルトロメウ・ディアス喜望峰到達、1498年ヴァスコ・ダ・ガマのインド航路開拓、1500年ペドロ・アルヴァレス・カブラルのブラジル発見へとつながります。ポルトの港から出発したエンリケの夢は、のちに「大航海時代」と呼ばれる歴史の転換点を生み出しました。リベイラ地区の石畳を歩くとき、この街がいかに世界を変えた港であったかを感じることができます。
サイクリング
街そのものは坂が多く自転車向きとは言えませんが、ドウロ川沿いと内陸ワイン地区は別格。EuroVelo 1 サイクリストにとって、ここは大切な中継地です。
ROUTE 1 · 約 14 km
リベイラ〜フォズ・ド・ドウロ
リベイラ地区から始まる川沿いのサイクリングロード。ほぼ平坦のままドウロ川を7km下って、大西洋にぶつかる河口地区フォズへ。途中、対岸ガイアのワインセラーを眺め、終点では海を見ながらシーフードランチ。帰りは同じ道を戻るか、メトロで輪行。
ROUTE 2 · 約 30 km / 獲得標高 300 m
海岸線とマトジニョス
フォズから北上、大西洋岸の自転車道を漁港町マトジニョスへ。シーフードレストランで知られる港町で、新鮮なイワシのグリルが名物。北側のレサ・ダ・パウメイラ海岸まで足を伸ばし、復路は内陸の高台を経由して街へ戻るループ。
ROUTE 3 · 約 80 km / 獲得標高 1,400 m
ドウロ渓谷ワインルート
本格派向け。輪行で内陸100kmのペソ・ダ・レグアまで列車(Linha do Douro)で移動し、そこからポートワイン産地ドウロ渓谷を自転車で走る。世界遺産の段々畑のブドウ畑、川沿いのワイナリー、村ピニャオン経由のループ。きつい登りと曲がりくねった峠道、絶景の連続。1日コースなのでガイドツアーも豊富。
EuroVelo / 長距離ルートとの接続
EuroVelo 1(大西洋沿岸ルート)がポルトを通過。北はガリシア・サンティアゴ・デ・コンポステーラ方面(約280km)、南はコインブラ・リスボン方面(約320km)へ続きます。新ルートではEV1はスペイン・フィステーラから始まり、ヴァレンサで国境を越えて南下してきます。ポルトはEV1ポルトガル区間の最大の中継拠点で、長距離ツーリストの多くがここで休息と観光に2〜3日滞在します。CP(ポルトガル鉄道)のLinha do Douro線で内陸渓谷へ、Alfa Pendularでリスボン方面への輪行も可能(要事前予約、自転車料金別)。
アクセスと交通
空港から
フランシスコ・サ・カルネイロ空港(OPO)は街の北約11km。メトロE線(Violeta)で市内中心トリンダーデ駅まで約30分、片道2.85€(市内ゾーン込み)。早朝・深夜は深夜バス3Mを利用。空港から自転車を持ち込む場合、メトロは折りたたみ袋に入れれば追加料金なし。
鉄道(長距離)
市内中心駅はサン・ベント駅(観光・近郊線)とカンパニャ駅(長距離)。Alfa Pendular(高速)でリスボンまで約2時間50分、片道30〜35€。Celta de Vigoでガリシアのビーゴ・サンティアゴ方面へ約2〜4時間。輪行は要事前予約、Alfa Pendularはロードバイク輪行袋必須。
市内交通
メトロ6路線、バス、トラム(古い1番路線が観光向け)、急坂を登るファニキュラ・ドス・ギンダイス。Andanteカードでメトロ・バス・トラム共通利用可能。坂の街なので、ガイア地区とリベイラの行き来はドン・ルイス橋+ファニキュラのコンボが楽。
ベストシーズン
大西洋気候の影響で地中海岸より涼しめ。5〜10月がおすすめ。気温18〜25℃で晴天が続き、観光・サイクリング両方に快適。真夏(7〜8月)でも内陸ほどは暑くならず観光しやすい代わりに、観光客でかなり混む。6月23〜24日のサン・ジョアン祭前後は街が最もエネルギッシュになるタイミングで、宿の予約は早めに。冬(11〜3月)は雨が多く、しっとりとした石畳の街を歩くのが好きな人には向くが、サイクリングは厳しい。
