EV1 ノルウェー編

ノルウェー北極圏 5月は白夜

EuroVelo 1 · Norway · Overview

フィヨルドと白夜、北極の岬へ続く道

ノルウェーのEuroVelo 1は、ハンザの港町ベルゲンから北上を始め、世界遺産ソグネフィヨルド、ガイランゲルフィヨルドを縫って、ヴァイキング王国の旧都トロンハイムへ。さらに北極圏を超えてロフォーテン諸島の玄関ボードー、白夜と北極大聖堂の街トロムソを経て、ヨーロッパ大陸最北端の岬 ノールカップ(71°10′ N) に到達する、約 2,600 km の EV1 最終セクションです。フィヨルド、トンネル、フェリー、白夜、サーミの大地 — 旅人を 2 か月以上引きとめる、ヨーロッパ縦断の終着区間。

OVERVIEW

ルート概要

スコットランド・アバディーンまたはシェトランド・ラーウィックから(不定期の)フェリーでベルゲンに上陸。ここから北上を開始し、国道 13 号と国道 55 号を縫ってソグネフィヨルド、ガイランゲルフィヨルド(共に世界遺産)を渡り、絶景街道「大西洋道路(Atlanterhavsveien)」を経てヴァイキング王国の旧都トロンハイムへ。さらに北上し、ヘルゲランド海岸を国道 17 号「Kystriksveien(沿岸街道)」で辿りながら 北緯 66°33′ の 北極圏(Arctic Circle)を超え、ロフォーテン諸島の玄関ボードーへ。ロフォーテン・ヴェステローレン諸島の橋とフェリーを乗り継いで「北のパリ」と呼ばれる港町トロムソへ。最後はサーミの大地フィンマルクを抜けて、ヨーロッパ大陸最北端ノールカップ(北緯 71°10’)の岬で EV1 全 9,000 km の旅が終わります。距離は約 2,600 km、ノルウェーだけで EV1 全体の約 3 割を占める最長セクション。フェリー、トンネル(一部は自転車通行不可)、海岸 e6 号線の起伏が走行を支配し、夏の白夜と短い好天期(6〜8 月)に集中して走るのが現実的。

ハイライト

HISTORY & CULTURE

ヴァイキングとハンザ、サーミの大地

ヴァイキング時代: 8〜11 世紀、ノルウェーの海岸からヴァイキングたちが船で出航し、英国・アイスランド・グリーンランド、果ては北米まで到達しました。トロンハイムは初代キリスト教王オーラフ・トリュッグヴァソンが 997 年に築いた古都で、当時のスカンジナビア最強の王国の首都。聖オーラフの墓所ニーダロス大聖堂は中世巡礼の北端でした。

ハンザ同盟の北の拠点: 14〜18 世紀、ベルゲンはハンザ同盟の重要な海外商館(コントール)が置かれた都市。ドイツ商人が干鱈(ストックフィッシュ)を独占的に取引し、港の埠頭「ブリッゲン」には木造の三角屋根倉庫が今も並びます。

サーミ(Sámi)の文化: 北極圏のフィンマルクはサーミ人の伝統的な領土サープミ(Sápmi)の一部。トナカイ遊牧、ヨイク(喉歌)、伝統衣装ガクティが今も生きる文化です。カラショークやカウトケイノには独自議会(サーミ議会)があり、サーミ語の道路標識が並びます。

第二次世界大戦の傷跡: ナルヴィク戦(1940 年)、ドイツ軍によるフィンマルク焦土作戦(1944 年)など、北部ノルウェーは大戦の最前線でした。キルケネス、ハマフェスト、トロムソには戦争記念館が点在し、復興後の現代都市の姿と重ねて見ることができます。

WORLD HERITAGE

世界遺産

ブリッゲン(ベルゲン)  出発点ベルゲンの旧市街、ハンザ同盟時代の三角屋根の木造倉庫群。1979 年世界遺産登録。火事と再建を繰り返した独特の傾いた家並みは、ノルウェー観光のシンボル。

西ノルウェー・フィヨルド群  ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルドの 2 つで構成される「フィヨルドの王様」。垂直に切り立つ岩壁、無数の滝、奥地の小村が織りなす世界最高峰の氷河地形景観。ルート沿いから両方とも訪問可能。

ヴェガ群島(ヘルゲランド海岸沖)  1,000 を超える小島が連なる漁業文化遺産。エイダーダック(ホンケワタガモ)と人間が共生する独特の生業がユネスコに評価され登録。沿岸街道 Kystriksveien から短いフェリーで訪問可。

レーロース鉱山町(東部内陸)  17 世紀から銅鉱山で栄えた木造の街。トロンハイムから東への寄り道で 1 日。木造建築の保存状態が良く「ノルウェーで最も寒い街」としても有名。

アルタの岩絵(フィンマルク)  ノールカップ手前のアルタ近郊にある、紀元前 5,000〜紀元前 200 年のサーミ祖先の岩面彫刻群。北極圏に住んだ古代狩猟採集民の世界観が刻まれた、北欧唯一の先史時代世界遺産。

シュトルーベ測地弧  19 世紀、地球の正確な形を測るために 10 か国にまたがって設置された三角測量点の連鎖。ノルウェー側はハマフェスト近郊の「メリディアン記念碑」がルートから至近。

LANDSCAPE

フィヨルド、ロフォーテン、白夜のツンドラ

西ノルウェー・フィヨルド地帯(ベルゲン〜オーレスン): 氷河が削った深い入江が内陸 200 km まで切り込み、両岸には標高 1,500 m を超える垂直の岩壁。ソグネフィヨルド、ハダンゲルフィヨルド、ガイランゲルフィヨルドが連続する、世界屈指のドラマチックな海岸線。フェリーと急勾配の連続。

ヘルゲランド海岸と北極圏越え(トロンハイム〜ボードー): 国道 17 号 Kystriksveien が島々と本土を 6 本のフェリーで繋ぐ沿岸街道。北緯 66°33′ の北極圏標識でいよいよ「白夜の地」へ。セヴン・シスターズ山群、スヴァルティーセン氷河など、人口の希薄な氷河地形が連続。

ロフォーテン・ヴェステローレン諸島(ボードー〜トロムソ): 海中から鋭く突き出した尖った花崗岩の山々と、赤い漁師小屋ロルブー(Rorbu)が並ぶ漁村。海面に直接そびえる「ロフォーテン・ウォール」は EV1 最大の絶景区間。

フィンマルクの大平原(トロムソ〜ノールカップ): 樹木が消え、苔と地衣類だけのツンドラが地平線まで続く高地(ヴィッダ)。トナカイの群れが横切り、サーミの仮設テント(ラヴヴ)が点在する、ヨーロッパで最も人口密度の低い土地。

FOOD

サーモン、トナカイ、ブラウンチーズ

ノルウェーサーモン  世界市場の 6 割を占める養殖サーモン王国。グラブラックス(塩・砂糖・ディルで漬けた生サーモン)やスモークサーモンは朝食ビュッフェの定番で、ベルゲンの魚市場では獲れたてを店頭で食べられる。
ストックフィッシュ(Tørrfisk)  ロフォーテンの冬の風物詩、岩棚に吊るして自然乾燥させた鱈。ハンザ同盟時代からヨーロッパ全土に輸出された保存食で、戻して煮込む「バカラオ」がノルウェー版郷土料理。
トナカイ肉(Reinsdyr)  フィンマルクのサーミ料理の中心。スモーク、ステーキ、シチュー「ベイダル」など。低脂肪・高タンパクで野性味のある赤身。
ブラウンチーズ(Brunost / Gjetost)  ヤギ乳・牛乳のホエーをキャラメル化させた茶色の甘いチーズ。専用のチーズスライサーで薄く削って黒パンに乗せるのがノルウェーの朝食の象徴。
シナモンロール(Kanelbolle / Skillingsboller)  ベルゲン発祥の大ぶりシナモンロール。コーヒー文化が根付くノルウェーでは午後のフィーカ(Kaffepause)に欠かせない一品。
クラウドベリー(Multebær)  北極圏の湿地に夏だけ実るオレンジ色の野生ベリー。生クリームとともにデザートに、または蒸留酒の風味付けに。「黄金のベリー」と呼ばれる珍味。
アクアヴィット  ジャガイモを原料にキャラウェイで風味付けした蒸留酒。寒さが厳しい夜に少量を冷やして飲むのが伝統。

DETAILS

セクション

この区間を 4 つのセクションに分けて、通過地・世界遺産・歴史風土を順に紹介します。

SECTION 1

ベルゲンからトロンハイム

世界遺産ブリッゲンが並ぶハンザの港町ベルゲンを出発。フロイエン山を背に北上し、世界最長のソグネフィヨルド(深さ 1,308 m、長さ 204 km)をフェリーで渡り、ネーロイフィヨルド、ガイランゲルフィヨルドの絶景区間を通過。続いて世界一美しい道とも言われる「Atlanterhavsveien(大西洋道路)」の橋梁群を渡り、海岸線を縫ってヴァイキング王国の旧都トロンハイムへ。中世最北の巡礼地ニーダロス大聖堂が終着の目印。約 900 km、フィヨルド横断フェリーが 7〜8 本必要な、起伏とフェリー待ちの 2 週間。

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SECTION 2

トロンハイムからボードー

トロンハイムから北上し、ノルウェー観光街道「Fv17 Kystriksveien(沿岸街道)」へ。本土と無数の島嶼をフェリーで渡り継ぐ約 650 km の海岸道で、ヴェガ群島(世界遺産)への寄り道、セヴン・シスターズ山群、スヴァルティーセン氷河(本土ヨーロッパ第二の規模)が次々現れる。途中、北緯 66°33′ の 北極圏標識 を超え、6 月〜7 月は太陽が一晩中沈まない「白夜(Midnight Sun)」の世界へ。ロフォーテン諸島への玄関ボードーで終わる、フェリー本数の多さ(最大 6 便)と人口希薄さが特徴の中級セクション。約 700 km。

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SECTION 3

ボードーからトロムソ

ボードーからフェリーでロフォーテン諸島の南端モスケネスに上陸。レーヌ、ハムノイ、Å(オー、世界一短い地名)など、海に直接そびえる尖峰と赤い漁師小屋ロルブーが並ぶ漁村群を縫って、E10 号「Lofoten King’s Road(ロフォーテンの王の道)」を北東へ。橋とトンネルでヴェステローレン諸島へ渡り、ハルスタやアンドネスを経て本土に戻り、世界最北の大学があり「北のパリ」と呼ばれる港町トロムソへ。9 月以降は晴れた夜にオーロラのチャンスも。約 600 km、EV1 最大の絶景セクション。

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SECTION 4

トロムソからノールカップ

トロムソを出発し、いよいよサーミの大地サープミへ。E6 号と E69 号を北上、世界最北の小麦栽培地リンゲン地方、世界遺産アルタの岩絵、世界遺産シュトルーベ測地弧の北端ハマフェスト、ヨーロッパ大陸最北のキリスト教徒の街ホニングスヴォーグを経て、海底トンネル(自転車不可・夏季はバスで通過)でマーゲロイ島へ。最後の 34 km をペダルを漕いで、北緯 71°10′ のノールカップ岬の岩盤に到着。眼前は北極海、地球儀のモニュメントが EV1 の終点を示します。約 600 km。EV1 全 9,000 km のクライマックス、白夜と地球の最果ての景色。

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旅のヒント

アクセス

英国(アバディーン/ニューカッスル/シェトランド)からノルウェー本土への定期フェリーは現在非常に限定的で、貨客船 DFDS Seaways や季節便を組み合わせるか、デンマーク・ヒルトスハルス〜ベルゲンの長距離フェリー(Fjord Line)を経由するルートが一般的。ノルウェー国内の鉄道(Vy)はベルゲン〜オスロ・オスロ〜トロンハイム・トロンハイム〜ボードーをカバーするが、ボードーから北は鉄道がなく、長距離バス(NOR-WAY Bussekspress)か沿岸急行船 Hurtigruten(ベルゲン〜キルケネス間、自転車積載可)が頼り。

ベルゲン  出発点。ベルゲン空港から欧州各地へ直行便、オスロまで Bergensbanen(7 時間の山岳鉄道)。Fjord Line のフェリーでデンマーク・ヒルトスハルスへ。

オーレスン  西海岸のアール・ヌーボーの街。オスロ・ベルゲンへ長距離バス。

トロンハイム  旧首都。Dovrebanen 鉄道でオスロへ 6 時間、Nordlandsbanen でボードーへ 10 時間。空港から欧州主要都市へ。

ボードー  ノルウェー国鉄の最北駅。Nordlandsbanen の終点で、ここから北は鉄道が無い。空港便でオスロ・トロンハイムへ。

トロムソ  北のパリ。空港から欧州主要都市直行便、オスロへは 2 時間。Hurtigruten の主要寄港地。

アルタ  世界遺産岩絵の街。トロムソ・ハマフェストから長距離バス、空港便でオスロ・トロンハイムへ。

ホニングスヴォーグ/ノールカップ  終点。最寄りの空港はホニングスヴォーグ(季節便)、または近郊のラクセルブ。Hurtigruten が毎日寄港。シーズンオフは陸路と空路の組み合わせが必要。

補給・宿

ノルウェーの宿は キャンプ場のキャビン(Hytter)が定番で、寝具持参で 1 棟 500〜1,000 NOK 程度。ノルウェーは「Allemannsretten(万人の権利)」により、耕作地・私有地から十分離れていれば 1 泊の野営が法的に認められた国。ヨーロッパで最も自由なワイルドキャンプができる土地のひとつです。観光協会 DNT(ノルウェー山岳協会)が運営する山小屋ネットワークも、メンバーになれば全国 550 棟以上で利用可能。物価は EU 諸国の 1.5〜2 倍と高く、スーパー REMA 1000KiwiCoop での自炊が現実的。ハイランドのフィンマルクは集落間が 50〜100 km 離れることもあるため、補給と給水は計画的に。

気候・装備

ノルウェーは南北約 1,750 km と縦に長く、気候は緯度ではなく「海岸性かどうか」「フィヨルドの奥か外洋か」で大きく変わります。EV1 のノルウェー区間が走れるのは現実的に 6 月初旬〜9 月初旬 のみ。冬は雪と凍結で多くのフェリー・峠が閉鎖されます。

西部(ベルゲン〜オーレスン)  ベルゲンは「ヨーロッパで最も雨の多い都市」とも言われ、年間降雨量は 2,200 mm 超。1 日に四季が訪れるのが日常で、防水ジャケットとシューズカバーは常時必携。夏でも 14〜18 ℃。

中部・北極圏入口(トロンハイム〜ボードー)  6 月初旬〜7 月中旬は「白夜(Midnight Sun)」で 24 時間明るく、長距離走行が可能。一方、内陸の峠では夏でも雪が残り、フェリー区間は強風で欠航のリスクあり。

北部(ロフォーテン〜トロムソ)  北大西洋海流の影響で同緯度のシベリアより 20 ℃ ほど暖かいが、それでも夏の平均気温は 12〜15 ℃。海から急に立ち上がる山岳地形のため、霧と突風が日常。

最北部(フィンマルク〜ノールカップ)  ツンドラの高地は 6〜7 月でも雪が降ることがあり、夜間の気温は 0 ℃ 近くまで下がる。ミッジ・ブヨ(Knott)が湿地で大発生するので、虫除けスプレーと頭部用ネットは必携。8 月後半以降は晴れた夜にオーロラのチャンス。9 月に入るとノールカップ周辺は雪と暴風のリスクが高まるため、走行期限は 9 月初旬までが安全。

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🏁 ノールカップ到達 — EV1 完走